平成28年度都立高校入試【理科】入試問題分析
【総論】
難化。平均点が50点を下回る可能性もあると感じている。出題形式については昨年と変更がないものの、昨年度までと異なり、ほとんどの選択肢問題で2択に絞ることが難しくなった。また、各大問ごとの問いの難易度の幅が広くなり、基本的なものからかなり難しい問いまで配置されており、息をつく暇がなくなった。(この投稿につきましてはいずれ修正を入れることとなると思います。あらかじめご承知くださいませ。)
※大問3問1について修正しました(16/03/18)。
【各論】
大問1 小問集合
問1 模式図から深成岩の表面のものと判断すればよい。基本レベル。
問2 それぞれの力の矢印をどこから書き始めるかを確認すればよい。重力は物体の中心。垂直効力と摩擦力は接する面の中央から。基本レベル。
問3 栄養分が最も多いのは小腸から肝臓の間。アンモニアのが最も少ないのはアンモニアを尿素に変える働きをする肝臓を通った後。アンモニアの量が少ない部分がが問われたのは初めてではないか。基本レベル。
問4 重量パーセント濃度の計算だが、溶解度を越えた部分は水に溶けていないので、36÷136×100の式で濃度を計算することになる。やや難しいレベル。
問5 スクリーンの位置が焦点距離の2倍であることから、この場合は物体をスクリーンと反対側の焦点距離の2倍の位置に置くと結像するという知識が必要。基本レベル。
問6 震源からの距離と初期微動継続時間は比例の関係にあること、地震の規模を表すのはマグニチュードであること、の2つの知識を押さえればよい。基本レベル。
大問2
問1 それぞれの生物のいずれがもう一方を捕食する関係にあるか、また分解者が有機物を無機物に変えていることの知識を問う。基本レベル。
問2 音は振幅が大きいほど大きな音となり、振動数が多いほど高い音になる知識を問う。基本レベル。
問3 指定された気温と湿度の空気に含まれる水蒸気量は1㎥あたり21.8×80/100=17.44g。この空気を15℃まで冷やすと17.44gから18℃の飽和水蒸気量を引いた差のおよそ2.0gが水滴となる。基本レベル
問4 まず、状態変化をしても変わらないのは質量。その際の体積比は密度が小さいほうが体積が大きくなるので、計算をせずとも同様の関係にある比を選択すればよい。やや難しいレベル。
大問3 天体[中3内容]
問1 見えている金星の形は円形に近いため地球からは離れた位置にある。また月と金星と火星がほぼ同じ方角にあり、地平線に近い順に火星,金星,月の順に並んでいる。この順に見えるの選択肢をしぼり、金星の形から解答を決める。やや難しいレベル。
問2 図4〜7のときと異なり、東の空に月と金星が見えていることから、ともに光の当たる場所が図2のときと反対になる。やや難しいレベル。
問3 選択肢Aについて「黄道付近に観察できる」を<結果2>に記述されている「地球と金星と月がそれぞれ公転面するはほぼ一致している」と置き換えることができるか。選択肢B,C,Dについては基本知識。やや難しいレベル。
大問4 植物のなかま,生殖[中1,3内容]
問1 単子葉類と双子葉類の根、茎の断面のつくりの区別と、無性生殖と有性生殖の区別ができればよい。基本レベル。
問2 純系の遺伝子の組み合わせと、教科書で太字扱いとなる遺伝子の本体の名前についての知識を問う。基本レベル。
問3 両親の遺伝子の組み合わせから子の遺伝子の組み合わせを確認する表を作成し、優性と劣性の形質を確認し比を出せばよい。基本レベル。
問4 まず、Aとaの数は組み合わせが変わるのみなのでそれぞれの数が変わることはない。次に並葉と丸葉の比率についてだが、これは教科書の知識からは解答ができない。地道に遺伝子の組み合わせを確認するしかない。子の代の並葉と丸葉の比率を確認すると3:1、さらに自家受粉による孫の代の並葉と丸葉の比率を確認すると5:3となる。ここから丸葉の比率が上がっていることが確認できるので、「3:1」ではなくなることがわかるため解答が特定できる。難しいレベル。
大問5 イオン[中3内容]
問1 水素を判別する方法と電気分解の仕組みの理解を問う。基本レベル。
問2 生成した塩である硫酸バリウムは濁る、つまり沈殿となることが問題文からわかるので、水に溶けにくいと判断できる。またその場合は電離していないのでイオンでなはない。基本レベル。
問3 基本的な化学反応式。基本的レベル。
問4 塩酸と硫酸を同じ体積10㎤を中性にするために加えた水酸化ナトリウムの体積は、硫酸に加えた量が塩酸に加えた量の半分になっているので、硫酸に加えた水酸化物イオンの数は、塩酸に加えた量の半分となる。中性であるので、加えた水酸化物イオンと結びついた水素イオンの数は同数となる。したがって、硫酸に含まれる水素イオンの数は、塩酸に含まれる水素イオンX個の半分となるので1/2X個。中性になれば水素イオンはなくなっているので、解答を特定できる。イオンの濃度と体積の関係は、教科書では発展的内容として扱われている。やや難しいレベル。
大問6 電流と磁界[中2内容]
問1 実験器具の取り扱いと使い方。基本レベル。
問2 オームの法則を用いて電流と電圧を求め、さらに電力を算出する。ひとつひとつの計算は基本的だが、解答に至るまでのステップがやや多い。やや難しいレベル。
問3 まず、「Cool」と「Hot」のそれぞれのときに風の強さに変化がないことを問題文から確認する。するとモーターの電圧が一定であるために電熱線をonにしてもoffにしても風の強さが変わらないということがわかる。仮に、電熱線とモーターを直列につないでいるのであれば、「Cool」と「Hot」のそれぞれのときにモーターにかかる電圧が変わる。すると「Cool」と「Hot」のそれぞれの際のモーターの電力が異なる。電力が異なればモーターの動きに変化がでることになるので、風の強さを調べる吹き流しの動きに変化がでる。何を記述すべきか迷うだろう。ポイントは風の強さが電圧にかかわりがあることをつかめるかどうか。難しいレベル。
問4 エネルギーの変換について。基本レベル。
【対策】
比較的難しくなった過去2年よりさらに難化している。一問一答的な知識だけでは対処できないケースが増えており、知識に対して本質的かつ応用的な理解が求められている。また、本年度については扱われている分野の半分以上が中3の学習内容で、しかも多くが苦手としやすい部分を取り扱っている。平成25年頃までは読み取りを間違えなければ多少の知識不足もカバーできたが、今年度は常に正確な知識の運用が要求されており、この2,3年の出題状況からから今後もこの傾向は続くものと考えたほうがよいだろう。もっとも、他府県の入試と比べて優しい部類に入る都立高校の入試が標準のレベルになっただけであるとも言える。
入試の対策としては、用語や知識をしっかり把握するのは当然のこととして、高得点を目指すのであれば、それぞれについてきちんと説明ができるレベルまで理解を深めたい。まずは単元ごとに問題演習を重ねて知識の定着と問題に慣れるのが最初だろう。その点をクリアできたならば、入試の総合問題に数多く触れていきたい。以前は、都立入試の理科対策は都立の過去問や類題を利用していればおおむね結果を出すことができたが、今後は他府県さらに国立レベルの入試問題など歯ごたえのある問題にチャレンジすることが不可欠である。得点力の向上のために、これまで以上にじっくりとトレーニングを積む必要がある。
(文責:伊藤大介[理科担当])